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Q60【貸倒損失】税務上認められる3つのパターン・損金算入時期は?/税務否認されないための実務上の対応方法

最終更新日:2023/06/08

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貸倒損失の実務上の判断は?

 

貸倒損失とは、得意先の倒産や、連絡がつかないなど・・債権が回収できない場合、「売掛金」を損金処理することをいいます。
しかし・・「貸倒損失」の要件はハードルが高く、税務調査でも問題になるケースが多いです。
今回は、貸倒損失の内容や税務上の要件、税務否認されないための実務上の対応方法を中心にお伝えします。
 

1. 3種類の貸倒損失

税務上は、以下の3つの「貸倒損失」が認められています。特に、「事実上の貸倒」や「形式上の貸倒」は、損金算入要件が非常にハードルが高くなっています。
 

種類内容
法律上の貸倒(法基通9-6-1)法的な債権の切り捨てや、債務免除を行った場合など
事実上の貸倒(法基通9-6-2)債権全額が回収できないことが明らかになった場合
形式上の貸倒(法基通9-6-3)継続取引先で、取引停止後1年以上経過した場合や、回収コストが債権を上回る場合

2. 法律上の貸倒

法律上の貸倒には、次の3つのものがあります。

内容貸倒処理年度貸倒損失額
会社更生法や民事再生法他、法令の規定による切捨額事実(計画認可等)が決定した事業年度切り捨てられた金額
法令手続以外の債権者集会の協議決定等での切捨額
債務者の債務超過状態が相当期間継続し、金銭債権の弁済
を受けることができない場合に、書面で行った債務免除額
書面で債権放棄の通知をした日書面による債務免除額
(1)損金経理の要件なし

法律上の貸倒は、「損金経理」の要件はありません。つまり、経理処理を失念していたとしても、その後「更生の請求」は可能です。
 

(2)法令の規定による切捨額

法的な債権切捨の「損金算入時期」は、すべて「決定」があった時です。
 

● 更生計画(会社更生法等の規定)に対する認可が決定された債権
● 再生計画(民事再生法の規定)に対する認可が決定された債権
● 特別清算(会社法の規定によるもの)についての協定が認可された債権

「申立」や「手続が開始」された時点では、まだ「貸倒損失」を認めてもらえません(貸倒引当金の計上は可能)。
 

(3)書面で行った債務免除額

債務免除は、弁済不能が明らかで、債務超過期間が継続している必要があります。「単に債務免除通知書」を送ればよいというわけではありません。
一般的には、債務超過状態が相当期間(3 年~5 年)継続している場合が目安とされています。

 

3. 事実上の貸倒

事実上の貸倒は、以下の内容となります。

種類貸倒処理年度貸倒損失額
債務者の資産状況、支払能力等からその
全額が回収できないことが明らかになった場合
債権全額が回収できないことが明らかになった事業年度債権全額-処分価格
(1)損金経理が要件

事実上の貸倒は、「損金経理」が要件となります。
つまり、損金経理を失念していた場合は、その後の事業年度において損金算入することは認められない点に留意しましょう。
 

(2)全額回収不能の場合のみ

債務者の資産状況、支払能力等を判定し、全額回収不能の場合のみです。一部でも回収できる場合は×です。
担保や保証債務がある場合は、処分や保証人から回収した後でないと貸倒計上できません(担保順位等により、実質全額回収不能な場合は、OK)。

【全額が回収できないことが明らかになった場合とは・・】

●債務者の状況だけでなく、債権回収に必要な労力、取立費用等との比較考量、その他の経済的損失等といった、債権者側の事情も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断(最高裁判所判例)。
債権者側の事情も考慮できる点がポイント

 

4. 形式上の貸倒

形式上の貸倒には次の2つのものがあります。

内容貸倒処理年度貸倒損失額
継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、
支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止し、
1年以上経過したとき(担保物のある場合は除く)
「取引停止時」「最後の支払期限」「最後の支払時」のうち最も遅い時から1年以上経過した事業年度売掛債権-備忘記録1円
同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が、取立費用
より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
督促をしても弁済がない日
(1)損金経理が要件

「事実上の貸倒」と同様に「損金経理要件」があります。損金経理を失念していた場合は、その後の事業年度に損金算入することは認められません。また、「形式上の貸倒」の場合は、「備忘記録(1円)」を残す必要がある点にも注意が必要です。
 

(2)全額回収不能である必要はなし

債務者の資産状況、支払能力等を判定する必要がある点、「事実上の貸倒」と同様ですが、「事実上の貸倒」と異なり、全額回収不能である必要はありません。「債権」が、経済的には無価値となっていないが(形式上の貸倒)、回収努力をしたが、先方の返済能力不足の結果、1年以上回収が滞っていることなどが判断要件となります。担保物がある場合、「処分完了までの期間」は、1年の期間から除外される点も注意です。
 

(3)売掛金等が対象

継続取引の要件が要求されますので、「売掛債権」が対象となり、貸付金や単発取引は含みません(実際に複数回継続取引がなくても、継続意思があって顧客情報を管理している場合などはOK)。

 

5. 税務調査の観点

貸倒損失は、税務調査で問題になるケースが多いです。税務調査のポイントは①貸倒の事実認定(上記要件に該当するか)②貸倒損失計上時期です。

特に、②事実上の貸倒と③形式上の貸倒は、「債務者の支払能力等」の判断が実務上は非常に難しいです。

事実認定については、エビデンスで説明できる形が必要です。当初の請求書や納品書はもちろんですが、追加で整備すべき資料を例示すると、以下となります。
 

法律上の貸倒(法基通9-6-1)●認可決定や協議決定等に基づく切捨額の決定書
●債務免除通知書、先方決算書、信用調査会社のレポート等(債務免除の場合)
事実上の貸倒(法基通9-6-2)●先方決算書、信用調査会社のレポート
●取引先から戻ってきた宛先不明郵便
●債権督促の記録、担当者の報告書、議事録等社内資料
●回収努力の履歴(内容証明郵便、催告書等)
形式上の貸倒(法基通9-6-3)

対外的な書類がなくても、社内的な文書や報告書、電話履歴等などでも、税務調査の際は、有効な書類となりますので、事実経緯を書面で残しておくことが重要となります。
実務的には、常識的な「社内ルール」を作成して、貸倒処理をしていれば、税務署から否認される恐れも少ないかと思います。
 

6. 貸倒損失の会計処理・消費税

勘定科目は「貸倒損失」となります。営業活動に関連した売掛債権の場合は「販売費及び一般管理費」、貸付金など売掛債権以外の場合は「営業外費用」となります。形式上の貸倒の場合は、備忘記録1円を残して貸倒損失を計上する点に留意が必要です。
なお、貸倒損失については、消費税仕入税額控除が可能です。貸倒損失と消費税の関係、会計処理については、Q32で解説していますのでご参照ください。
 

7. 参照URL

金銭債権の貸倒https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_06_01.htm

 

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8. YouTube

 

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