税金の豆知識
Q60 貸倒損失の実務上の判断は?
最終更新日:2022/01/1732057view

得意先の倒産や、連絡がつかないなど・・債権が回収できない場合、
会計処理に迷われるかもしれません。
税務上は、「貸倒損失」っていう制度があって、損金算入が認められています。
でも・・税務署は簡単には「貸倒損失」を認めてくれないんですね。
かなり要件が厳しくなっています。
目次
1. 3種類の貸倒損失
税務上は、以下の3つの「貸倒損失」が認められています。
種類 | 内容 |
---|---|
法律上の貸倒(法基通9-6-1) | 法的な債権の切り捨てや、債務免除を行った場合など |
事実上の貸倒(法基通9-6-2) | 債権全額が回収できないことが明らかになった場合 |
形式上の貸倒(法基通9-6-3) | 継続取引先で、取引停止後1年以上経過した場合や、回収コストが債権を上回る場合 |
2. 法律上の貸倒って?
(1)内容
法律上の貸倒には、次の3つのものがあります。
内容 | 貸倒処理年度 | 貸倒損失額 | |
---|---|---|---|
① | 会社更生法や民事再生法他、法令の規定による切捨額 | 事実が発生した事業年度 | 切り捨てられた金額 |
② | 法令手続以外の債権者集会の協議決定等、合理的な基準切捨額 | ||
③ | 債務者の債務超過状態が相当期間継続し、金銭債権の弁済を受けることが できない場合に、書面で行った債務免除額 |
書面で債権放棄の通知をした日 | 書面による債務免除額 |
(2)特徴
●法的な債権切捨の「損金算入時期」は、すべて「決定」があった時です。
「申立」や「手続が開始」された時点では、まだ「貸倒損失」を認めてもらえません。
(貸倒引当金の計上は可能)
●債務免除は、先方が弁済能力を失っている場合が前提です。
「単に債務免除通知書」を送ればよいというわけではありません。
一般的には、債務超過状態が相当期間(3 年~5 年)継続している場合などです。
●法律上の貸倒は、「損金経理」の要件はありません。
つまり、経理処理を失念していたとしても、その後「更生の請求」は可能です。
(3)必要な資料
●認可決定や協議決定等に基づく切捨額の決定書
●債務免除通知書
●先方決算書、信用調査会社のレポート等(債務免除の場合)
3. 事実上の貸倒って?
(1)内容
事実上の貸倒は、以下の内容となります。
種類 | 貸倒処理年度 | 貸倒損失額 |
---|---|---|
債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できない ことが明らかになった場合(担保物はその処分後、保証債務は履行後) |
債権全額が回収できないことが明らかになった事業年度 | 債権全額-処分価格 |
(2)特徴
●全額回収不能の場合です。一部でも回収できる場合は×です。
●債務者の資産状況、支払能力等を判定する必要がある。
●担保や保証債務がある場合は、処分や履行後までは貸倒計上できません。
(担保順位等により、実質全額回収不能な場合は、OK)
●事実上の貸倒は、「損金経理」が要件となります。
つまり、損金経理を失念していた場合は、その後の事業年度において損金算入することは認められない点に留意しましょう。
(3) 「全額が回収できないことが明らかになった」とは?
債務者の状況だけでなく、債権回収に必要な労力、取立費用等との比較考量、その他の経済的損失等といった、債権者側の事情も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断します(最高裁判所判例)
債権者側の事情も考慮できる点がポイントです。
(4)準備しておく資料
●先方決算書、信用調査会社のレポート
●取引先から戻ってきた宛先不明郵便
●債権督促の記録、議事録等社内資料
4. 形式上の貸倒
(1)内容
形式上の貸倒には次の2つのものがあります。
内容 | 貸倒処理年度 | 貸倒損失額 | |
---|---|---|---|
① | 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、 支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止し、 1年以上経過したとき(担保物のある場合は除く) |
「取引停止時」「最後の支払期限」「最後の支払時」のうち最も遅い時から1年以上経過した事業年度 | 売掛債権-備忘記録1円 |
② | 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が、取立費用 より少なく、支払を督促しても弁済がない場合 |
督促をしても弁済がない日 |
(2)特徴
●「事実上の貸倒」と異なり、全額回収不能である必要はありません。
●債務者の資産状況、支払能力等を判定する必要がある点、「事実上の貸倒」と同様ですが、「債権が、経済的には無価値となっていない(形式上の貸倒)」点が異なります。
例えば、回収努力をしたが、先方の返済能力不足の結果、1年以上回収が滞っていることなどが判断要件となります。
●継続取引なので、「売掛金等」が対象となります。
⇒ 貸付金や単発取引は含みません
(実際に複数回継続取引がなくても、継続意思があって顧客情報を管理している場合などはOK)。
●担保物がある場合、処分完了までは、1年の期間から除かれます。
●「事実上の貸倒」と同様に「損金経理要件」がありますので損金経理を失念していた場合は、その後の事業年度に損金算入することは認められません。また、「形式上の貸倒」の場合は、「備忘記録」を残す必要がある点にも注意が必要です。
(3)準備する資料(判断に至るプロセス)
基本的に事実上の貸倒と同様です。
(4)実務上の判断
上記要件では、いつまでたっても貸倒処理できないことがあるかもしれません。
実務的には、多少、上記条件に当てはまらない場合でも、ある程度常識的な「社内ルール」を作成して、貸倒処理をしている会社もあります。
要は、実態判断なので、常識の範囲ということでしょうね。
参照URL
金銭債権の貸倒https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_06_01.htm