税金の豆知識
Q82 工事完成基準・工事進行基準って?
最終更新日:2023/11/2266202view

建設業等での請負工事に関しては、収益計上基準として2つが認められています。
工事完成を待たず、進捗状況に応じて収益を計上する「工事進行基準」、工事完成時に一括で収益を計上する「工事完成基準」です。税法上は、一定規模・期間を要する工事(長期大規模工事)につき、工事進行基準が強制されています。
今回は、法人税上の請負工事等のかかる収益の計上基準につき解説します。
目次
1. 工事完成基準・工事進行基準とは?
区分 | 内容 |
---|---|
工事完成基準 | 工事完成時に収益を計上 |
工事進行基準 | 工事完成を待たず、工事進捗率に応じて収益を計上 |
建設業に限らず、造船、大型機械装置の製造や受注制作のソフトウェアなど、「物の引き渡しを目的」とする請負契約全般が対象となります。
2. 法人税上の取扱い
区分 | 法人税上の取扱い |
---|---|
長期大規模工事(※1) | 工事進行基準の強制適用 |
上記以外の工事 | 原則 工事完成基準 例外 工事進行基準(※2) |
(※1)長期大規模工事とは?(法64①、法令129)
以下のすべての要件を満たす工事
① | 工事着手日から、契約上の目的物引渡期日までが1年以上 |
---|---|
② | 請負対価が10億円以上 |
③ | 請負対価の2分の1超が工事の目的物引渡期日から1年を経過する日までに支払われることが定められているもの |
(※2)工事進行基準が認められる要件
① | 着工事業年度中にその目的物の引渡しが行われない工事 |
---|---|
② | 確定決算において、「工事進行基凖の方法」により経理を行う |
③ | いったん工事進行基準を選択した工事は、毎期継続して適用 |
3. 消費税の取扱(消17)
(1) 売上
原則 | 目的物の「引渡日」の課税売上 |
---|---|
例外 | 工事進行基準の収益額は「収益計上時」の課税売上でもOK |
(2) 仕入
原則 | 各資産の「引渡日」の課税仕入とする |
---|---|
例外 | 継続条件を要件として、目的物(全体)引渡日での課税仕入もOK |
4. 具体例
● 請負金額11,000(税込)、翌期完成。
● 当期中に、300前受金入金(残額は完成後入金)
● 見積総原価5,500(税込)、当期仕入原価1,100(税込)
● 翌期仕入原価4,400(=実際総原価は、見積総原価と同額だったとする)
● 消費税は、仕入は原則処理・売上は例外処理で認識する。
(1) 工事進行基準
① 当期の処理
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
仕入時 | 未成工事支出金 仮払消費税 | 1,000 100 | 普通預金 | 1,100 |
前金入金時 | 普通預金 | 300 | 未成工事受入金 | 300 |
決算時 | 完成工事原価 未成工事受入金 完成工事未収入金 | 1,000 300 1,900 | 未成工事支出金 完成工事高(※) 仮受消費税等(※) | 1,000 2,000 200 |
(※)
当期売上高 = 請負金額 × 当期原価 / 見積総原価
2,200万円 = 11,000万円 × 1,100 / 5,500
② 翌期の処理
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
仕入時 | 未成工事支出金 仮払消費税 | 4,000 400 | 普通預金 | 4,400 |
完成時 | 完成工事原価 完成工事未収入金 | 4,000 8,800 | 未成工事支出金 完成工事高 仮受消費税 | 4,000 8,000 800 |
(2) 工事完成基準
① 当期の処理
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
仕入時 | 未成工事支出金 仮払消費税 | 1,000 100 | 普通預金 | 1,100 |
前金入金時 | 普通預金 | 300 | 未成工事受入金 | 300 |
② 翌期の処理
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
仕入時 | 未成工事支出金 仮払消費税 | 4,000 400 | 普通預金 | 4,400 |
完成時 | 完成工事原価 完成工事未収入金 | 5,000 11,000 | 未成工事支出金 完成売上高 仮受消費税 | 5,000 10,000 1,000 |
5. 部分完成基準(法基通2-1-9)
部分完成基準とは、全部は完成していないが、一部引き渡している場合は、引き渡し部分につき収益を計上が強制されるものです(長期大規模工事を除く)。
よく誤解される点は、部分完成基準はあくまで、工事完成基準の「完成引き渡し」の単位を明確に定めているだけのものですので、「工事完成基準」の考え方そのものであり、「工事進行基準」ではありません。
(1) 部分完成ごとの収益計上が強制される場合
● 一つの契約で、同種の建設工事等を多量に請け負ったような場合で、その引渡量にしたがって工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合
● 1個の建設工事等であっても、その建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度、その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合
(2) 部分完成基準の例
100戸の建売住宅の建設で、1戸を引き渡す都度、工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合など
(3) 出来高請求との違い
実務上は、毎月「出来高」で請求する工事案件もあります。
しかし、この「出来高請求」と、「部分完成基準」とは全く異なります。
「出来高請求」は、単純に工事ができたところまでお金の請求をするだけのもので、その時点で「完成引渡」があるわけではありません。
出来高請求時点での「入金額」は、売上ではなく「前受金」となります。
6. (ご参考)会計基準上の取扱い
「工事進行基準」が原則となりますが、適用要件(成果の確実性)を満たさない場合は、「工事完成基準」となります。
7. 参照URL
(法人税)~請負による収益・部分完成基準~
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_02.htm
(消費税 延払基準・工事進行基準を用いているとき ・未成工事支出金)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6161.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6487.htm