税金の豆知識
Q160【令和4年改正】所得拡大税制の具体例(中小企業者)/雇用調整助成金・通勤交通費の取扱い
最終更新日:2022/08/3112058view

従業員に支払った給料につき、前期よりも一定金額増加させた場合、税額控除できる制度があります。
「所得拡大促進税制」と呼ばれます。
法人だけでなく、個人事業主も制度の対象となります。
今回は、「中小企業者向けの所得拡大税制」についてまとめます。
(大企業者向けは、Q161をご参照ください)
目次
1. 所得拡大税制とは?
(1) 所得拡大税制とは?
中小企業向けの所得拡大促進税制とは、
● 青色申告を提出している「中小企業者」が
● 国内雇用者に給与等を支給する場合
● 前年度より給与等支給総額を1.5%以上増加させた場合に、
● 増加額の15%(or25%)を法人税額(又は所得税額)から控除できる制度です。
事前申請は不要ですが、確定申告の際には明細書を添付する必要があります。
(2) 中小企業者とは?
以下の会社です。
① | 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(※1)(※2) |
---|---|
② | 資本又は出資を有しない法人で、常時使用従業員数が1,000名以下の法人(※1) |
③ | 常時使用従業員数が1,000名以下の個人事業主 |
④ | 協同組合等 |
(※1)前3事業年度の所得金額の平均額が15億円超の法人は除く
(※2)同一の大規模法人(資本金の額が1億円超の法人等)から1/2以上の出資を受ける法人や、2以上の大規模法人から2/3以上の出資を受ける法人は除く
(3) 適用期間
2024年3月31日までに開始した各事業年度まで適用が可能です。
2. 適用要件
当期の雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額 ×101.5%
設立初年度や開業初年度は、前期がありませんので、適用できません。
雇用者とは? | パート等は含まれるが、役員及びその特殊関係者は含まれない。 中途入社や退職者も含まれる |
---|---|
給与等支給額(Q22) | 国内雇用者に対して支給する給与・賃金・賞与等で適用年度に損金算入される金額 退職金は含まれない 所得税が課税されない非課税通勤交通費は一般的には含めません |
3. 税額控除額(控除対象雇用者給与等支給増加額)
(1) 原則15%
(当期の雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)×15%
(2) 一定の場合、25%OK
以下の要件どちらも満たす場合、税額控除割合が25%に拡大されます。
① | 雇用者給与等支給額が前年度から2.5%以上増加 |
---|---|
② | 以下のどちらかの要件を満たす ●当期の教育訓練費≧前期の教育訓練費×110%(※)or ●適用年度終了日までに経営力向上計画の認定&証明を受けていること |
(3) 令和4年4月1日開始事業年度からは上乗せ要件緩和
令和4年税制改正により、令和4年4月1日開始事業年度より、税額控除の上乗せ要件が緩和されています。
以下の要件どちらかを満たせば、税額控除割合が最大40%に拡大されます。
① | 雇用者給与等支給額が前年度から2.5%以上増加 |
---|---|
② | 当期の教育訓練費≧前期の教育訓練費×110%(※) |
(※)経営力向上計画はなくなります。
【税額控除額】
①のみ満たす | 通常の15%+上乗せ分15%=合計30%の税額控除 |
---|---|
②のみ満たす | 通常の15%+上乗せ分10%=合計25%の税額控除 |
①②どちらも満たす | 通常の15%+上乗せ分15%+10%=合計40%の税額控除 |
(3) 上限
通常の場合及び上乗せの場合共通で、当期の法人税額(or事業所得にかかる所得税額)の20%が限度となります。この上限制限は令和4年4月1日開始事業年度~も変更ありません。
4. 雇用調整助成金等の取扱い
雇用調整助成金等については、適用要件判定時は、「給与等支給額」から控除しなくてよいものとされています(所得拡大QA Q13)。
ただし、実際、税額控除額を計算する際の給与等支給額の増加額の算出については、雇用安定助成金を控除して計算する必要があります。
したがって、どの道「雇用調整助成金等」の額を把握sる必要があることになります。
雇用調整助成金等とは、雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額をさします。左記に上乗せして支給される助成金も含まれます。
5. 教育訓練費とは
教育訓練費は、「国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用」です。
(1) 該当するもの
他の者に委託する教育訓練等費用 | 研修委託費・講師人件費・施設使用料等の委託費用(Q41~Q46)⇒100%子会社への委託も含む・Q45 )。 |
---|---|
他の者が行う教育訓練等に参加させる費用 | 外部研修参加費等(Q47・48)⇒法人が社員に支払う報奨金は×(Q49) |
(2) 該当しないもの
● 使用人等に支払う教育訓練中の人件費(Q35,Q37)。
● 教育訓練等に関連する旅費、交通費、食費、宿泊費等(Q36)。
● 福利厚生目的など教育訓練以外を目的として実施する場合の費用(Q38)。
● 法人等が所有する施設等の使用に要する費用。
● 法人の施設等の取得等に要する費用(Q39)。
● 教材の購入・製作に要する費用(Q51~53)。
6. 具体例
(1) 例題
● 法人1月決算。設立20期目。資本金100万円(中小企業者とする)。
● 2023年1月期の法人税額は400万円とする(税額控除前)。
● 2023年1月期に「所得拡大税制」が適用できるか?
(各事業年度の状況)
前事業年度 | 当事業年度 | |
---|---|---|
2022/1 | 2023/1 | |
給与年間支給額 | 3,000万円 | 3,150万円 |
(うち、役員への給料) | (△350万円) | (△250万円) |
小計(=雇用者への給与) | (B)2,650万円 | (A)2,900万円 |
教育訓練費 | (D)200万円 | (C)300万円 |
(2) 要件あてはめ
計算 | 可否 | |
---|---|---|
通常要件 | (A)÷(B)=109.4%≧101.5% | 〇 |
上乗せ要件1 | (A)÷(B)=109.4%≧102.5% | 〇 |
上乗せ要件2 | (C)÷(D)==150%≧110% | 〇 |
⇒通常要件及び上乗せ要件すべて満たす。
(3) 税額控除額
① 通常+上乗せ分
(2,900万円(A)-2,650万円(B)) ×25%=62.5万円
② 上限(法人税の20%)
400万円×20%=80万円
① ≦ ②のため、①62.5万円全額控除が可能
7. 参照URL
(中小企業向け所得拡大促進税制よくあるご質問 Q&A 集)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai03qanda.pdf
経済産業省(中小企業向け 所得拡大促進税制ご利用ガイドブック)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai03guidebook.pdf