税金の豆知識
Q28 出向給与の会計処理/源泉所得税・社会保険・労働保険の取扱い/給与支払者と負担者の関係は?
最終更新日:2023/06/05144383view
例えば、親子会社間では、人事政策の一環として出向・転籍するケースもあると思います。
出向と転籍は、現在の「雇用関係」が消滅するか?どうかの区分となります。
出向とは? | 現在の雇用関係は消滅せず、籍を残して他の法人に勤務 |
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転籍とは? | 現在の雇用関係は消滅し、他の法人に籍を移して勤務 |
転籍者の給与については、一般的に転籍前の法人が負担することはありませんので、今回は「出向者給与」にテーマをしぼって解説します。
目次
1.出向者給与に関する税務上の考え方
(1)給与相当額の負担者は?
出向とは、現在の雇用関係を継続したまま、一定期間、子会社等に派遣され、当該子会社等で業務に従事することです。
税務上、出向者の給与は、「どこに労働を提供した結果得た給料か」をもとに負担関係(課税関係)を決定します。
つまり、出向の場合は、基本的に出向先での勤務となりますので、出向者の給料は、「出向先」が100%負担するのが税務上の考え方です(応益負担の原則)。
合理的な理由なく、出向元が負担した場合は、税務上は、出向元⇒出向先への寄付金課税が認定されます。
(出向先は費用と受贈益が両建計上)
(2)給与を支払するのはどちらか?(法律)
一方、出向者に直接給料を支払う会社は、出向元出向先の協議で決定されるため、結論どちらでも構いません。
ただし、出向者は出向元の会社と雇用契約(or委任契約)が締結されているため、一般的には、給与を本人に支払う会社は「出向元」であるケースがほとんどです。
(3)給与負担金の発生
したがって、一般的に、本人への給料支払は「出向元」で行う一方、実質給与の負担は「出向先」となりますので、出向先⇒出向元に「給与負担金」を支払うケースがほとんどのパターンとなります。
「出向先」が「出向元」に支払う「給与負担金部分」は、税務上「給与」として取り扱われます
(法基通9-2-45)。
(4)代表的なパターン
出向元 | 出向者に直接給与を支払 |
---|---|
出向先 | 給与負担金を出向元に支払 |
● Aさんは、親会社(出向元)から、子会社に出向し、子会社(出向先)で100%就業する。
●Aさんへの直接の給与支払は、出向元(親会社)で行う
●子会社(出向先)は、親会社(出向元)に、Aさんの「給与負担金」を支払う
2.勘定科目や消費税の取扱い
(1)給与・給与負担金支払時の勘定科目(出向元・出向先)
①出向元が従業員に直接支払う「給与」②出向先負担の「給与負担金」(税務上給与扱い)の勘定科目は・・どちらも「給与」でしょうか?
勘定科目の決まりは特にありませんが、出向元が従業員に直接支払う給与は「給与」、出向先が支払う給与負担金は「支払手数料など給与以外の科目」の方がわかりやすいと思います。
なぜなら、後述の源泉徴収等や社会保険の支払義務は、すべて給与を従業員に支払う「出向元」となるため、これらとの関係を考えると、出向元は「給与」の方がわかりやすいです。一方、源泉や社会保険徴収義務がない出向先は、給料以外の科目「支払手数料」などがわかりやすいかなと思います。
(2)給与負担金受取時の勘定科目(出向元)
出向元は、給与相当額を出向先から受け取りますが、受取額は「給与」のマイナスではなく、「受取手数料」あるいは「雑収入」等の科目で「収入計上」する方がわかりやすいと思います。
理由は上記(1)と同様です。給与のマイナス処理をすると、給与の源泉所得税との関係がわかりにくくなりますので、「給与」は支給額を示しておく方が、わかりやすいと思われます。
(3)給与負担金の消費税
出向先が出向元に支払う「給与負担金」は、勘定科目に関わらず、税務上は給料扱いされますので消費税は不課税となります(親会社の受取手数料等も、同様に不課税)。(消基通5-5-10)
(4)まとめ
会社名 | 支払時科目 | 受取時科目 | 消費税 |
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出向元 | 給料(従業員へ) | 受取手数料等 | 不課税処理 |
出向先 | 支払手数料等 | - | 不課税処理 |
3.源泉所得税や社会保険の支払はどちら?
(1)源泉所得税
源泉所得税は、出向元(直接従業員に給料支払う側)に「徴収・支払義務」があります(消基通183~193共-3)。
(2)社会保険料(健康保険・厚生年金)
社会保険料も、上記同様、出向元(直接従業員に支払う側)に「徴収・支払義務」があります。
従業員等への給料支払金額に基づき標準報酬月額が算定され、出向元が、毎月年金事務所へ支払います。
疑義照会(回答)票 ブロック本部受付番号 No.2010—003 本部受付番号 No.2010—654
・・出向元との労働契約は存続しており、そのうえで報酬が出向元から支払われているものと思料する。・・出向元で報酬を支払うに際してその労働者の勤務状況等について把握していると考えられ、また、昭和32年2月21日保文発第1515号によると「労働の対償とは、被保険者が事業所で労務に服し、その対価として事業主より受ける報酬の支払ないし被保険者が当該事業主より受けうる利益」とあることから出向元で適用するのが妥当である。
(3)労働保険
①労災保険
労災保険料は、出向先(実際就業している会社)に「納付義務」があります。
出向社員は、出向先の指揮命令下で業務を行い、安全配慮義務は出向先にあることから、労災保険の支払義務者は「出向先」となります(昭和35.11.2 基発932)
②雇用保険
雇用保険については、出向元(直接従業員に支払う側)に「納付義務」があります。
雇用保険関係は、一人の労働者に対し一つしか成立し得ず、その者が生計を維持するに必要な「主たる賃金」を受けている雇用関係についてのみ成立します(雇用保険に関する業務取扱要領2035(2)イ(イ)b)
(4)まとめ
源泉所得税 | 出向元 | 社会保険料 | 出向元 | 労災保険 | 出向先 | 雇用保険 | 出向元 |
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なお、上記は、各役所に対して、どちらが支払うか?という意味に過ぎません。
実際に負担する会社は、どこに労働を提供して得た給料か?で判断します。
例えば、法人負担分(社会保険など)は、一旦出向元が支払うとしても、当該支払分は、出向先への請求に基づき、出向先が負担することになります。
4.較差補てんの取扱い
出向した場合でも、出向元の賃金水準を維持する観点等から、「給与条件の較差を補てん」する場合があります。
(1)較差補填金の損金算入は?
給与較差を補てんする等、合理的理由がある場合には、補てん額につき損金算入が可能です
(合理的理由がない場合は、給与相当額を超えた部分は、「寄付金」)
(2)給与較差を補てんする合理的な理由例(法基通9-2-47)
● | 出向先が経営不振等で賞与を支給できないため、親会社が負担した賞与等 |
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● | 出向先が海外にあるため、国内の出向元が「留守宅手当」を支給する場合 |
● | その従業員に特別な技術力があって、当該技術力に対して支給する場合 |
5.出向先での立場が「役員」の場合
(1)役員報酬規制
出向先での立場が「役員」の場合は、注意が必要です。
下記要件を両方満たす場合は、出向先が負担する「給与負担金」は「役員報酬」として取り扱われ、一般的な役員報酬の規制を受けます。
① | 役員給与負担金の額につき、出向先法人の株主総会等で決議がされている。 |
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② | 出向契約等で出向期間及び給与負担金の額があらかじめ定められている。 |
(2)出向元で支給される「賞与」
出向元で従業員の場合は、出向元が従業員として、「賞与の支払」をする場合があります。当該出向元が支給した賞与を、子会社が負担する場合は、「定期同額給与」には該当しませんので、原則として子会社で役員賞与と認定され、損金不算入となります(事前確定届出給与は除く)。
6.退職金関係の取扱い
出向期間に対応する退職給与の額 | ●出向先が、出向期間に対応する退職給与の額を、定期的に出向元に支出している場合は、出向先で支出事業年度に損金算入可能(法基通9-2-48)。 ●出向者が出向元を退職した場合、出向先が出向期間に対応する退職給与の額を支出したときも、支出事業年度に損金算入可能(法基通9-2-49) ●なお、出向先は、合理的な理由があれば、出向期間に対応する退職給与の額を負担しないことも可能(法基通9-2-50)。 |
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適格退職年金 | ●出向元の「適格退職年金契約」で、出向先が出向者の掛金等の額を出向元に支出したときは、支出事業年度に損金算入できます。(法基通9-2-51) |
7.参照URL
(転籍、出向者に対する給与等)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_09.htm
(出向先事業者が支出する給与負担金 消5-5-10)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/05/05.htm
(源泉徴収義務及び徴収税額並びに年末調整183~193共-3)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/30/01.htm
(出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5242.htm