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Q194【令和5年改正】研究開発費・試験研究費の税務処理・会計基準との違い/試験研究費の税額控除(特別控除)の内容や範囲は?

最終更新日:2024/05/02

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Q194【令和5年改正】研究開発費・試験研究費の税務処理・会計基準との違い/試験研究費の税額控除(特別控除)の内容や範囲は?

新製品や、サービス等を開発する費用は、一般的に「研究開発費」と呼ばれます。

「研究開発費」については、会計基準上は、原則として支出時に費用処理となりますが、税務上は、製造原価や固定資産で計上するケースがあり、実務上は非常に混乱する論点です。

また、税務上は、「試験研究費」という名称で統一され、一定要件を満たす場合、試験研究費の一部を法人税(or所得税)から控除(税額控除)できます。

そこで今回は、税法上の「試験研究費」の税務処理・税額控除の内容を中心に、会計基準と比較しながら解説します。

 

1. 税法上の「試験研究費」とは?

(1) 税法上の試験研究費とは 

試験研究費とは、①製品の製造・技術の改良、考案若しくは発明及び②対価を得て提供する「サービス開発」に係る試験研究に要する費用です。例えば、試験研究を行うための原材料費、人件費(専門的知識で試験研究業務に専ら従事する者の人件費に限る)、経費の他、他に委託する場合の「委託試験研究費」も含まれます(国税庁No.5442、No.5444)。
 

(2) 試験研究費に該当するための要件 

試験研究費は、一般的に、以下の5つの要件を満たすものとされています。
(「研究開発費税制の概要と令和年度税制改正について」より抜粋 経済産業省産業技術環境局)

新規性新たな知見や、新たな応用を考案するために行う活動
創造性独自の概念及び仮設に基づく
不確実性結果に不確実性が伴う
計画性計画的に行われる
再現性結果の再現可能性があるもの
(=別の研究者が同じ条件で研究を行った場合、同じ結果が得られること)

【具体例】

既に量産方法含めて技術的に確立している方法で製品を企画し、製造する行為×新規性(①)や創造性(②)がないため
奇才の画家が独創的な作品を生み出す活動×創造的活動(②)であるが、結果の再現性がないため
(3) 新たなサービスも含む 

研究開発費には、製品の製造・技術のみでなく、役務提供、つまり「新たなサービス」も含まれます。ただし「対価を得た新サービス」に限定されるため、既存サービスの改良や、社内業務改善の試験研究は対象外となります。「製品」と「サービス」の研究開発費に関する取扱いを比較すると、以下となります。

製品の製造・技術の改良、考案若しくは発明● 税法上の「試験研究費」は、新製品・新技術に限らず、現に生産中の製品の製造や既存技術改良のための試験研究も含まれる「広い」概念(※)
サービス開発 ①データの収集②データの分析③新サービスの設計④新サービスの適用のすべての活動が行われる必要がある。
⇒ AIや、ビックデータのサービス提供の研究開発等。

(※)会計上は、既存製品の通常の改良研究は「研究開発費」には含まれず、資産計上となります。
 

2. 試験研究費の税務処理/会計基準との違い

会計上は、「研究開発費等に係る会計基準」で、原則として支出時に一括費用処理と定められていますが、税法上は、一括経費処理が認められず、資産計上する場合があります(棚卸資産や固定資産)。
①研究開発内容及び②固定資産等の取扱いに関して、両者を比較すると、以下の通りです。
 

(1) 研究開発内容による違い 

税務上、基礎・応用研究は「一般管理費(期間費用)」、工業化研究は「製造原価」で処理を行います。製造原価の場合、販売時点で損金となるため、研究開発段階(=販売前)では、在庫(=資産)で計上します(法基通5-1-4 (2))。
一方、会計上は、研究開発内容に関わらず、原則として、すべて「一般管理費(期間費用)」で処理を行う点が大きく異なります

区分内容税務処理会計処理
基礎研究
応用研究
● 自然現象の法則を見つける等、原理原則の研究(基礎研究)
● 工業化資料を作成するための研究(応用化研究)
● その他、工業化研究に該当することが明らかでないもの
一般管理費一般管理費
工業化研究● 基礎・応用研究を元に、工業化や量産化するための研究
(=製品化のめどがついたもの)。
● 既存製品や既存技術改良のための研究も含まれる。
製造原価(=資産計上)(※)

【具体例 試験研究用棚卸資産(原材料等)の判定】

「研究開発用材料等」のうち、基礎研究・応用研究等で利用するものは「一般管理費(期間費用)」、工業化研究で利用するものは「製造原価(=「原材料」で資産計上)」で処理します。

 

(※)実務上は、どの段階の試験研究費なのか?が判別できないケースが多いため、「工業化研究に該当することが明らかなもの」のみを製造原価に算入するケースも多いです。
 

(2) 固定資産・試作品等の取扱い 

税務上、試験研究用の固定資産・試作品・自社利用ソフトウェアに関しては、たとえ基礎研究・工業化研究の段階であっても、一括費用処理ができず、原則として「資産計上」となります。試験研究用の原材料等と取扱いが異なる点にも注意が必要です。

区分税務処理会計処理
試験研究用固定資産
(機械装置や特許権等(※)
固定資産で計上
●通常の減価償却資産よりも短い耐用年数が設定されている
「特定の研究開発目的だけに使用され、他の用途に転用できない機械装置等」は、取得時に研究開発費として費用処理
試作品固定資産としての機能を有する場合や、外部に販売可能なものは、固定資産or棚卸資産で計上。
●仕損材料費や不採用の設計費、研究開発段階の人件費などは支出時損金計上可(法基通7-3-15の3)。
新製品の試作品の設計・製作のための費用は、発生時に研究開発費として費用処理。
自社利用ソフトウェア原則、無形固定資産で計上研究開発費or無形固定資産で計上

(※)他の用途から開発研究の用に転用されたものも同様
 

3. 開発費と試験研究費の違い

税法上の「試験研究費」に似たもので、「開発費」というものがあります。
「開発費」とは、新技術・新経営組織の採用、資源の開発・市場開拓のために「特別に支出」する費用です(法施令 14条1項3号)。開発費は、法人税上、任意償却の「繰延資産」となりますので、試験研究費と会計処理が異なります(法施令第64条1項1号)。

試験研究費との違いは難しいですが、新しい「知見」等を得るため「計画的」に行われ、「再現可能性」(=別の研究者が同じ条件で研究を行った場合、同じ結果が得られること)がある活動は「試験研究費」、ゼロから独創的に生み出す、「再現可能性」がない活動は「開発費」となります。

「開発費」は、「特別な支出」である必要があるため、経常的な支出となる費用、例えば不動産賃借料、消耗品費、人件費、保険料、光熱費などは含まれません(開発費については、「会計」「税務」で異なる点はありません)。

【開発費の例示】

新技術の採用技術導入費、特許権使用に関する頭金等(ただし、ノウハウ設定の頭金は税法固有の繰延資産に該当)
新経営組織の採用新経営組織採用に伴うコンサル費用、設備移転費用、人員配置換え費用等(集中生産の機械装置移転費用等は、機械装置の取得原価 法基通7-3-12)
資源の開発鉱山業の探鉱のための地質調査、ボーリング費用等
市場の開拓新販路開拓の広告宣伝費、展示会出展費、市場調査費、PR品、パンフレット制作費等

4. 試験研究費の税額控除(特別控除)とは?

「一定の要件を満たした」試験研究費については、税額控除が認められています。次の3つの税額控除があります。すべて青色申告法人が対象となります(タックスアンサー No5441)。

制度税額控除額
A一般試験研究費の額に係る税額控除制度(※1)試験研究費」の額×控除率(1~14%)(※3)
B中小企業技術基盤強化税制(※2)試験研究費」の額×控除率(12~17%)(※4)
C特別試験研究費の額に係る税額控除制度
(オープンイノベーション型)
特別試験研究費」の額×控除率(20~30%)(※5)

(※1)大企業の場合、別途雇用者給与、設備投資額の要件あり
(※2)中小企業者のみ適用可能(原則、資本金の額が1億円以下の法人)
(※3)控除上限は法人税額×25%。別途上乗せ+令和5年改正による控除上限の変動措置あり
     控除率は、増減試験研究費割合により変動
(※4)控除上限は法人税額×25%。別途上乗せ措置あり
     控除率は、増減試験研究費割合により変動
(※5)控除上限は法人税額×10%

AとBは選択適用となり、中小企業者の場合は、Bを選択する方が有利となります。なお、欠損が生じる場合など、税額が生じない場合は、「税額控除」の恩典は受けられません。

 

5. 税額控除が可能な試験研究費・損金経理要件

 

(1) 税額控除の対象となる試験研究費

税額控除の対象となる「試験研究費」は、損金に算入される「試験研究費」だけでなく、「資産に計上されるもの」も含まれます(令和3年改正)。(租措法通達42の4(1)-1)。下記の通りです。

種類内容具体例
固定資産、繰延資産、棚卸資産の
取得価額に含められる研究開発費
自社利用ソフトウェアも含む)
税務上は、原則として「資産計上」となるものでも、「損金経理」を要件に、研究開発税制の対象●社内DXのためのソフトウェア開発費用
●顧客へのクラウドサービス等の開発に用いられるツール
●製品の製造に使用されるクリーンルームの開発・製造費用等

なお、国税庁上、試験研究費に含まれないものが、例示されています、(租措法通達42の4(1)-2、人文科学及び社会科学に係る活動など。)

 

(2) 損金経理要件

税額控除の要件として、試験研究費の「損金経理要件」が必要となります(措置法第 42 条の4第19項第1号イ⑴)。
したがって、税務上「資産計上」を行う固定資産等に関しては、会計上は費用処理を行い、税務申告書上加算・留保処理を行うことで、研究開発税制の対象にすることが可能です。
なお、会計上、費用処理を行わず、資産計上しているものについては、損金経理要件を満たしていないため、研究開発税制の適用が受けられません。

区分税務処理税額控除のタイミング
基礎研究・応用研究期間費用(一般管理費)支出時損金経理
工業化研究製造原価(当期総製造費用)支出時損金経理(申告加算)
試験研究用固定資産固定資産(取得原価)減価償却費計上時
非試験研究用固定資産(自社利用ソフトウェア等)固定資産(取得原価)支出時損金経理(申告加算)
(3) ご参考~税額控除の対象となる「特別試験研究費」(国税庁 No.5443 )

特別試験研究費は、名前の通り、試験研究費のうち、特別に支出した試験研究費となります。具体的には以下となります。

①特定研究機関、大学等と共同試験研究②スタートアップ・その他の民間企業等との共同試験研究③中小企業者の知的財産権を使用して行う試験研究④技術研究組合の組合員が共同して行う試験研究⑥高度研究人材の活用に関する試験研究⑥その用途に係る対象者が少数である医薬品に関する試験研究

(特徴)
● 特別研究機関等には、人文系の研究機関も含まれる(令和3年改正)。
● 共同研究の相手方には、国立研究開発法人・国公立大学等の外部化法人も含まれる(令和3年改正)

 

6. 参照URL

(研究開発税制の概要と令和年度税制改正について)

https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/R5gaiyou.pdf

(法基通5-1-4(2)製造原価に算入しないことができる費用)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_02.htm

(法基通 7-3-15の3 ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる費用)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_03_01.htm

(No.5441 研究開発税制について(概要))

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5441.htm

(No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5442.htm

(No.5443 特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型))

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5443.htm

(No.5444 中小企業技術基盤強化税制)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5444.htm

(税額控除関係 第1款 試験研究の範囲(租措法通達42の4(1)-1、2))

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/sochiho/750214/01/01_42_04a.htm

(試験研究用資産の減価償却費(租措法通達42の4(2)-4))

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/sochiho/750214/01/01_42_04b.htm

(研究開発費として損金経理をした金額の範囲)

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/210625/pdf/12.pdf

 

7. YouTube

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