税金の豆知識
Q141 過去4年内に「他の退職金」がある場合の所得税計算方法
最終更新日:2022/02/0339541view

前回、同じ年に複数の退職金がある場合の「所得税計算方法」をお伝えしました。
今回は、同じ年ではないが、前年以前4年間に「他の退職金」(※)を受け取っている場合の、退職金の所得税計算方法をお伝えします。(退職金にかかる所得税の基本的な算定方法は、Q140をご参照ください。)
結論を先に言うと、こういった場合は、今回受け取る「退職所得控除」の計算に、一定の調整が入ります。
(※)確定拠出年金の「老齢給付金」の場合は、前年以前14年間
目次
1. 調整の流れ(大枠)
他の退職金の退職所得控除額の不足額の有無把握 | 前年以前に受け取った「他の退職金」から差し引いた退職所得控除額で、控除不足額があったかどうか?を確認。 |
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重複期間の把握 | 「今回の退職金」と、前年以前に受け取った「他の退職金」の勤続期間の重複期間(年未満切捨)を把握。(※) |
調整額の算定 | 上記「重複期間」を、勤続年数とみなした場合の「退職所得控除額」を算定(=この額が調整額となります)。 |
退職所得控除額の算定 | 今回の退職金にかかる「退職所得控除額」から、上記の「調整額」をマイナスして、調整後の「退職所得控除額」を算定。 |
(※)「他の退職金」の退職所得控除額で、控除不足額がある場合は、「みなし勤続期間」を算定し、「みなし重複期間」を把握する必要があります。
なかなか難解で、文章だけではイメージしにくいと思います。以下に具体例を記載しますね。
2. 事例
● Aさんは、平成31年4月に、現職ビズ社を退職し、退職金を受け取った。
● Aさんは、平成30年12月に、クレア社からも退職金を受け取っている
● Aさんは、前職クレア社と現職ビズ社で、勤続期間に「重複期間」がある
ビズ社(現職)での退職金受取前4年以内に、クレア社(前職)から退職金を受け取っているため、ビズ社での「退職所得控除額」の計算に「一定の調整」が入ります。
(調整の流れ)
他の退職金の退職所得控除額の不足額の有無把握 | まずは、クレア社(前職)での退職金所得税計算時に、退職所得控除額の不足が生じていないか?を確認。 |
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重複期間の把握 | 「クレア社」と「ビズ社」の勤務期間の「重複期間」を把握。 |
調整額の算定 | 上記「重複期間」を勤続年数とみなした「退職所得控除額」を算定。(調整額) |
退職所得控除額の算定 | 「ビズ社」での「退職所得控除額」から、上記の「調整額」をマイナスして、調整後の「退職所得控除額」を算定。 |
以下、2つのケースに分けてまとめます。
3. ケース1 クレア社(前職)での「退職所得控除額」に控除不足がない場合(クレア社での退職金が、900万円の場合)
(1) クレア社での「退職所得控除」に不足額がないか?の確認
① 退職所得控除額
勤続年数21年(年未満切上)の退職所得控除額・・800万円+(21年‐20年)×70万円=870万円
② 退職所得控除不足額の有無
クレア社での実際退職金900万円 > 退職所得控除870万円(上記①)
⇒控除不足なし
(2) 重複期間の把握
重複期間は、H20/3~H30/12 (10年10カ月) ⇒10年(年未満切捨)
(3) 調整額の算定(重複期間を「勤続期間」とみなした場合の退職所得控除額)
40万円(※)×10年=400万円
(※)勤続年数20年以下の「年あたり」退職所得控除額
(4) ビズ社(現職)での退職所得控除額の算定
① 通常の計算(調整前)
40万円×12年(年未満切上)=480万円
② 調整後(上記①‐(3))
480万円 - 400万円 = 80万円
4. ケース2 クレア社(前職)での「退職所得控除額」に控除不足がある場合(クレア社での退職金が、500万円の場合)
(1) クレア社での「退職所得控除」に不足額がないか?の確認
① 退職所得控除額
ケース1と同じ。870万円
② 退職所得控除不足額の有無
クレア社での実際退職金500万円 < 退職所得控除870万円(上記①)
⇒控除不足あり
(2) みなし重複期間の把握
① みなし勤続期間の算定
● 前職クレア社では、控除不足が発生しています。そこで、まずは、クレア社での実際退職金500万円をもとに、
クレア社での「みなし勤続期間」を算定します。
● クレア社の「みなし勤続期間」は、「実際退職金」÷年あたりの退職所得控除額の逆算で算定します
(実際退職金に相当する「勤続期間」は、どれくらいか?)。
500万円(実際退職金)÷40万円(※)=12.5年 ⇒12年(年未満切捨)
(※)勤続年数20年以下の「年あたり」退職所得控除額
クレア社でのみなし勤続期間 = H10/4 ~ H22/3(12年)となります。
(⇒実際退職金500万に相当する「勤続期間」は、12年であったということ)
② みなし重複期間の把握
「みなし勤続期間」を前提に、「みなし重複期間」を把握します。
重複期間は、20/3~22/3 ⇒ 2年1か月 ⇒ 2年(年未満切捨)
(3) 調整額の算定(重複期間を「勤続期間」とみなした場合の退職所得控除額)
40万円(※)×2年= 80万円
(※)勤続年数20年以下の「年あたり」退職所得控除額
(4) ビズ社(現職)での退職所得控除額の算定
① 通常の計算(調整前)
ケース1と同じ。40万円×12年(年未満切上)=480万円
② 調整後(上記①‐(3))
480万円 - 80万円 = 400万円
5. 参照URL
(No.2732 退職手当等に対する源泉徴収)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm