税金の豆知識
Q161 賃上げ投資促進税制の具体例(大企業) H30改正
最終更新日:2022/02/0310938view

従業員に支払った給料等が、前期と比べて増加した場合、税額控除できる制度があります。
「所得拡大促進税制」(賃上げ投資促進税制)と呼ばれます。
平成30年度に大幅な改正が行われました。「中小企業者向け」と「大企業向け」で、内容や要件が異なります。
今回は「大企業向けの賃上げ投資促進税制」についてまとめます。
(中小企業者向けは、Q160をご参照ください)
目次
1. どんな制度?
大企業向けの所得拡大促進税制とは、
● 青色申告を提出している「大企業」が
● 国内雇用者に給与等を支給する場合
● 前年度より給与等支給額を増加させた場合に、
● 増加額の15%(or25%)を法人税額から控除できる制度です。
(大企業とは?)
下記に 該当しない企業
(租税特別措置法に規定する「中小企業者」に該当しない企業)
● 資本金の額等が1億円以下の法人で、発行済株式等の一定割合以上(※)を
大規模法人(資本金の額が1億円超の法人等)に所有されていない法人
● 資本等を有しない法人(or個人)で、常時使用従業員数が1,000名以下
(※)1法人で50%以上、複数法人で2/3以上
(POINT)
● 事前申請は不要ですが、確定申告の際に明細書を添付する必要があります。
2. 適用期間
2018.4.1~2021.3.31に開始される事業年度
3. 適用要件
「下記の要件」すべて満たす場合に、適用が可能です
① | 当期の雇用者給与等支給額>前期の雇用者給与等支給額 |
---|---|
② | 当期の継続雇用者給与等支給額÷前期の継続雇用者給与等支給額≧103.0% |
③ | 国内設備投資額≧当期償却費総額×95%(※)(令和元年税制改正大綱反映) |
(※)現時点は、償却費総額×90%です。令和元年税制改正により95%に引上予定
(POINT)
● 雇用者には、パート等は含まれるが、役員及びその特殊関係者は含まれない。
● 要件②は「継続雇用者」である点に留意。
● 大企業の場合は、「中小企業者」と異なり、要件③が追加される。
雇用者給与等支給額 | 雇用者に対して支給した給与・賞与。 |
---|---|
継続雇用者とは? |
前事業年度、適用年度すべての月分の支給がある国内雇用者。 ⇒前事業年度や適用年度中の、退職者や新入社員、休職者(※1)は含まれない ● 雇用保険一般被保険者ではない方と、継続雇用制度対象者は(※2)は除かれる。 |
国内設備投資額とは? |
● 適用事業年度に取得等した国内資産で、 適用年度終了日に有するものの減価償却前の取得価額の合計。 ● 有形・無形固定資産が対象。土地・建設仮勘定は対象外 |
(※1)「産休・育休手当」等は給与等に含まれると解されるため、注意
(※2)65歳未満で退職し、継続して雇用されている者
4. 対象となる給与等とは?
給与等の定義は、大企業・中小企業者どちらも同じです。
以下の通りとなります。
● 給料、賃金、賞与など。退職金は含まれない。
● 所得税が課税されない「通勤交通費」は、原則含まれない。
ただし、継続的に、通勤交通費を含めて支給額の計算をしている場合は、含めてOK。
5. 税額控除額
(1) 原則
(当期の雇用者給与等支給額 - 前期の雇用者給与等支給額)×15%
(税額控除額の算定は「継続雇用者」ではない、点に注意)
(2) 特典
以下の要件を満たす場合は、税額控除割合が20%に拡大されます。
当期の教育訓練費の額 ≧ 過去2年平均費の教育訓練費(※)×120%
(※)(前年教育訓練費+前々年教育訓練費)÷2
(※)中小企業者の上乗せ要件と異なり、大企業の場合は、前期と前々期の平均との比較となる点に注意
(3) 上限
当期の法人税額の20%を限度
6. 教育訓練費とは
教育訓練費の定義は、大企業・中小企業者どちらも同じです。
教育訓練費は、「国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用」です。
(1) 該当するもの
法人が教育訓練等を自ら行う費用 | 外部講師料・外部施設使用料。 |
---|---|
他の者に委託する教育訓練等費用 | 研修委託費・講師人件費・施設使用料等の委託費用。 |
他の者が行う教育訓練等に参加させる費用 | 外部研修参加費等 |
(2) 該当しないもの
● 使用人等に支払う教育訓練中の人件費。
● 教育訓練等に関連する旅費、交通費、食費、宿泊費等。
● 福利厚生目的など教育訓練以外を目的として実施する場合の費用。
● 法人等が所有する施設等の使用に要する費用。
● 法人の施設等の取得等に要する費用。
● 教材の購入・製作に要する費用。
7. 具体例
(1) 例題
● 法人3月決算。設立20期目。資本金200百万円(大企業とする)。
● 2022年3月期の法人税額は400万円とする(税額控除前)。
● 従業員は全員、雇用保険に加入済(一般被保険者)、継続雇用制度対象者はいない。
● 2022年3月期に「所得拡大税制」が適用できるか?
(各事業年度の状況)
前事業年度 | 当事業年度 | |
---|---|---|
2021/3 | 2022/3 | |
給与年間支給額 | (B)3,000万円 | (A)3,150万円 |
(うち、退職者への給料) | (△350万円) | - |
(うち、新入社員への給料) | - | (△250万円) |
小計(=継続雇用者への給与) | (D)2,650万円 | (C)2,900万円 |
設備投資額 | 1,000万円 | (E)2,500万円 |
減価償却費 | (F)2,000万円 | |
教育訓練費(※) | 2,000万円 | (G)3,000万円 |
(※)2020年3月期の教育訓練費は、2,000万円あったものとする。
比較教育訓練費=(前年2,000万円+前々年2,000万円)÷2=2,000万円(H)
(2) 要件あてはめ
計算 | 可否 | |
---|---|---|
要件1 | (A)≧(B) | 〇 |
要件2 | (C)÷(D)=109.4%≧103% | 〇 |
要件3 | (E)≧(F)×95% | 〇 |
上乗せ要件 | (G)÷(H)≧150%≧120% | 〇 |
⇒3要件及び上乗せ要件もすべて満たす。
(3) 税額控除額
③ 原則
((A)-(B))×20%=30万円
④ 上限(法人税の20%)
400万円×20%=80万円
①≦②のため、①30万円全額控除が可能
8. 参照URL
● 経済産業省(大企業向け 賃上げ・生産性向上のための税制 ご利用ガイドブック)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/30pamphlet.pdf