税金の豆知識
Q161【2023年3月~】大企業向け 賃上げ促進税制の具体例をわかりやすく解説/中小企業向け税制との違いは?/2023年3月決算から税額控除額拡大!
最終更新日:2023/12/0819009view
従業員に支払った給料等が、前期と比べて増加した場合、税額が控除できる制度があります。
「賃上げ促進税制」と呼ばれます。令和4年の税制改正により、税額控除額が増加しています。
賃上げ促進税制には、①中小企業向けと②大企業(資本金1億円超等)を含む「すべての事業者」向けの2種類に分かれますが、今回は②「大企業を含むすべての事業者向けの賃上げ促進税制」の概要につきお伝えします。
なお、カッコ書きのQは「大企業向け賃上げ促進税制よくあるご質問 Q&A」に対応しています。
目次
1. 大企業向け 賃上げ促進税制とは?
(1) 大企業向け賃上げ促進税制とは?
大企業を含むすべての事業者向けの「賃上げ促進税制」とは、
● 青色申告を提出している「すべて」の事業者が
● 国内雇用者に給与等を支給する場合
● 前年度より 「継続雇用者」に対する給与等支給額を 3%以上増加させた場合に、
● 「雇用者給与等支給増加額」の15%(or30%)を法人税額から控除できる制度です。
(2) 適用期間
2022年4月1日~2024年3月31日までに開始する各事業年度(個人事業主は令和5年分)
事前申請は不要ですが、確定申告の際に明細書を添付する必要があります(Q1)。
(3) マルチステークホルダー方針
資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の大企業は、従業員や取引先等の様々なステークホルダーとの関係の構築方針(賃金引上げ、教育訓練等の実施、取引先との適切な関係の構築等)を、ウェブサイト等に公表し、経済産業大臣に届け出が必要となります。マルチステークホルダー方針と呼ばれます(Q21)。
(4) 中小企業向け賃上げ促進税制との関係
今回の「大企業向け賃上げ促進税制」は対象は全ての「事業者」となりますが、資本金の額1億円以下等の「中小企業者」の場合は、比較的要件が緩い「中小企業向け賃上げ促進税制」の適用が可能です(増加率 101.5%vs103%)。したがって、今回の「賃上げ促進税制」のメインの対象は大企業となります。
ただし、若干要件は異なるため、中小企業で、「中小企業向け賃上げ税制」の適用ができないケースでも、今回の制度を活用できるケースもあります。
なお、「中小企業向け」と「大企業向け」の併用は不可となっており、どちらか一方のみの「選択適用」となります(Q6)。
2. 適用要件
「大企業向け賃上げ促進税制」は、以下の要件を満たす場合に適用が可能です。
当期の継続雇用者給与等支給額 ≧ 前期の継続雇用者給与等支給額 ×103.0%
●中小企業向けの「賃上げ促進税制」と異なり、比較する給与は、「継続雇用者」となります
(中小企業向けの場合は、単に「雇用者給与」だけで比較)。
●設立初年度や開業初年度は、前期がありませんので、適用できません(Q3)。
●前年の給与等支給額が0の場合も適用できません(Q32)。
雇用者とは?(Q8~10) | ●パート、アルバイト、日雇い労働者は含まれるが、使用人兼務役員を含む役員及びその特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれない。 |
---|---|
継続雇用者とは?(Q11~12) | ●前事業年度、適用年度すべての月分の支給がある国内雇用者。 ⇒前事業年度や適用年度中の、退職者や新入社員、休職者は含まれない ● 雇用保険一般被保険者ではない方や、継続雇用制度対象者(※)は除かれる。 ⇒例えば、雇用保険の適用除外となる週20時間未満の労働時間のパートの方などは、「継続雇用者」に含まれない |
給与等支給額(Q24) | ●国内雇用者に対して支給する給与・賃金・賞与等で、適用年度に損金算入される金額。 ●退職金は含まれない。 ●所得税非課税通勤交通費は、原則含まれますが、含めないことも認められます |
(※)65歳未満で退職し、継続して雇用されている者
3. 税額控除額(控除対象雇用者給与等支給増加額)
(1) 原則15%
税額控除率は、15%となります。中小企業向けの「賃上げ促進税制」と全く同じとなります。
「上記2」の、適用可否の判定は、「継続雇用者」で行いますが、税額控除額の算定に当たっては、「継続雇用者」ではなく、単に「雇用者」給与支給額の差額で算定する点に、注意が必要です。
(当期の雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)×15%
(2) 一定の場合、上乗せ要件あり
以下の要件どちらかを満たせば、税額控除割合が上乗せされます。
① | 継続雇用者給与等支給額が前年度から4%以上増加 | 税額控除率10%上乗せ |
---|---|---|
② | 当期の教育訓練費≧前期の教育訓練費×120% | 税額控除率5%上乗せ |
併用も可能ですので、①②どちらも満たす場合は、税額控除割合が15%上乗せされ、最大30%の税額控除になります。
中小企業向け「賃上げ促進税制」は、最大40%の税額控除となりますので、「中小企業者」に該当する場合は、中小企業向け賃上げ促進税制の方が、税額控除率は高くなります。ただし、中小企業向けと大企業向けの賃上げ促進税制は、微妙に判定要件や上乗せ要件が異なりますので、中小企業は、両制度を検討の上、どちらか有利な方を選択することも可能です。
(3) 上限
上記(1)(2)どちらの場合でも、当期の法人税額(or事業所得にかかる所得税額)の20%が限度となります。
4. 教育訓練費・雇用調整助成金等の取扱い
教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。教育訓練費の内容は、「中小企業向け賃上げ税制」と同じです。
また、雇用調整助成金等の取扱いも、「中小企業向け賃上げ税制」と同じとなりますので、詳しくは、中小企業向け「賃上げ促進税制」(Q160)をご参照ください。
5. 具体例
(1) 例題
● 法人3月決算。設立20期目。資本金200百万円(大企業とする)。
● 2023年3月期の法人税額は400万円とする(税額控除前)。
● 従業員は全員、雇用保険に加入済(一般被保険者)、継続雇用制度対象者はいない。
● 2023年3月期に「大企業向け賃上げ促進税制」が適用できるか?
(各事業年度の状況)
前事業年度 | 当事業年度 | |
---|---|---|
2022/3 | 2023/3 | |
従業員給与等年間支給額 | (A)3,000万円 | (B)3,150万円 |
(うち、退職者への給料) | (△350万円) | - |
(うち、新入社員への給料) | - | (△250万円) |
小計(=継続雇用者への給与) | (C)2,650万円 | (D)2,900万円 |
教育訓練費 | (E)2,000万円 | (F)3,000万円 |
(2) 要件あてはめ
計算 | 可否 | |
---|---|---|
通常要件 | (D)÷(C)=109.4%≧103% | 〇 |
上乗せ要件1 | (D)÷(C)=109.4%≧104% | 〇 |
上乗せ要件2 | (F)÷(E)=150%≧120% | 〇 |
⇒通常要件及び上乗せ要件1・2すべて満たす。
(3) 税額控除額
① 通常+上乗せ分
(3,150万円(B)-3,000万円(A))×(15% + 10% +5 %)=45万円
② 上限(法人税の20%)
400万円×20%=80万円
①≦②のため、①45万円全額控除が可能
6. 参照URL
(大企業向け「賃上げ促進税制」よくある御質問 Q&A 集 令和4年7月6日 公表版)
(経済産業省 大企業向け 賃上げ・生産性向上のための税制 ご利用ガイドブック 令和5年4月18日 公表版)
7. YouTube
YouTubeで分かる「【2023年3月~】大企業向け 賃上げ促進税制」
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