税金の豆知識
Q182 役員貸付金は「税務調査」で問題になる? /利息の仕訳・源泉所得税は?/金融機関はどう評価?
最終更新日:2022/02/039837view

役員との取引は、「税務調査」や「銀行融資」の際に、論点にあがるケースが多いです。
特に「役員貸付金」については、実際に「役員に貸付」する場合だけでなく、意図せず会計帳簿に計上されてしまう場合があります。
今回は、「役員貸付金」の発生原因、利息等の計上有無、税務調査や銀行融資等への影響をまとめます。
目次
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1. 役員貸付金の発生要因
(1) 役員貸付金が発生するケース
勘定科目が「役員貸付金」の場合だけでなく、「現金」が帳簿上、多額に計上されている場合も「役員貸付金」とみなされることがあります。また、以下のケースは、意図せず「役員貸付金」が計上される場合があるため、注意が必要です。
● 役員が会社のお金を出金し、個人利用している場合
● 役員が会社のお金を出金し、領収書紛失等により経費計上洩れとなる場合
2. 役員貸付金利息の計上
(1) 利息の計上は必要?
役員貸付金に関して、「受取利息」の計上は必要でしょうか?結論ですが、法人が営利目的で活動する団体である以上、貸付行為に関する「利息」の計上は必要です。
(2) 税務上の規定
役員(または使用人)に貸し付けた場合の「利率」は、税務上定められています。
平成30年~令和2年中の貸付にかかる利息は、年1.6%となります。
3. 無利息(or低利)で貸し付けた場合の税務上の取扱い
(1) 原則
「無利息」や「低利」で役員貸付を行った場合、適正利率(時価)で貸したものと取り扱われ、法人側は「適正利息との差額」につき、受取利息の計上が必要になります。一方、個人側は適正利息との差額は「経済的利益を受けたもの」として、「給与課税」されます。
影響 | |
---|---|
法人側 | 受取利息の追加計上 ⇒ 法人税課税 |
源泉所得税の追加計上 ⇒不納付加算税 | |
個人側 | 給与課税 ⇒ 所得税課税 |
(2) 給与課税される場合の法人側の仕訳
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
役員報酬(損金不算入) | 000 | 受取利息(益金計上) | 000 |
適正利息との差額につき「経済的利益」と認定された場合は、役員報酬と受取利息を計上します。役員報酬は、「定期同額給与」を超えた部分は、原則として損金不算入となります。一方で、受取利息については課税されます。また、源泉所得税も課税され、徴収漏れによる不納付加算税の論点があります。
(3) 例外 給与課税されない場合
例外的に、以下の場合は「給与課税」されません。
災害や病気等で臨時多額の生活資金が必要となった役員等に対し、合理的な「金額」及び「返済期間」で貸し付ける場合 |
会社の「借入金平均調達金利」など、合理的な貸付利率で金銭を貸し付ける場合 |
「税務上の利息-実際利息」の差額が、年間5,000円以下の場合 |
4. 税務調査での指摘事項
(1) 「役員賞与」と取り扱われることも
長期的に役員貸付金の返済がない場合、税務調査で、役員貸付金自体が「役員賞与」と認定される場合があります(根拠はよくわかりません)。
役員賞与認定された場合は「源泉徴収」が必要になりますので、源泉徴収漏れの「不納付加算税」が課税されます。また、役員賞与は損金に算入できません。
「賞与」認定されないためには、「金銭貸借契約書」や「返済予定表」など、借入事実や返済意思を示す根拠資料を整備しておく方が安全だと思われます。
(2) 未収利息に対する複利計算
貸付金利息が未入金の場合、「未収利息部分」を「役員貸付金の追加金額」として、複利計算による「追加利息計上」が指摘される場合があります。複利計算が「原則」ではありませんが、契約書等に「単利計算」の記載があれば、問題になることはありません。
5. 金融機関の観点
決算書で「役員貸付金」が多額に計上されている場合、金融機関は、「会社資金の個人流用」という見方をします。金融機関は、「融資の資金使途」を非常に重要視しますので、仮に貸し付けた資金が「個人流用される可能性が高い」と判断すれば、「融資の審査」は通りません。
また、金融機関の「融資自己査定」では、役員貸付金は、「財産」とは認識してくれません。不良債権として純資産の「実態修正」を行ったうえで「融資判断」が行われます。
したがって、銀行融資の観点からは、「役員貸付金」は「ない」ほうが望ましいです。
6. 役員貸付金を消す方法
(1) 貸倒損失は?
役員貸付金は「金銭債権」ですが、「貸倒損失の要件」を満たすことは基本的には難しいと思われます。法人が債権放棄を行った場合は、「役員賞与」とみなされ、損金にはできません。
(2) 役員個人からの返済
役員個人からの返済等で貸付金を減らします。例えば、以下の方法が考えられます。
① 個人からの資金の入金 or 役員借入金と相殺
② 役員報酬を高めに設定し、返済に充てる。将来の退職金と相殺
③ 個人資産を法人に売却し、売却代金を貸付金の返済に充てる
④ 法人で「役員」を被保険者とする保険に加入し、保険金を貸付金返済に充てる。
7. ご参考~役員借入金の場合は?~
個人が会社に金銭を貸しつける「役員借入金」の場合は、税務上、支払利息の計上は任意となります。個人は「営利活動目的」ではないからだと考えられます。
ただし、例えば、「役員報酬額」が低いにもかかわらず、法人で多額の「役員借入金」が計上されている場合は、以下の疑念を抱かれる可能性があります。
● 売上等所得の無申告(隠蔽による法人税申告漏れへの影響)
● 役員個人の貯蓄からの貸付(個人側の相続税申告漏れへの影響)
● 個人側の資金源の内容の確認(個人側の贈与税申告漏れへの影響)
8. 参照URL
(金銭を貸し付けたとき)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2606.htm