税金の豆知識
Q150 簡易課税 2種類以上の事業を営む場合の計算
公開日:2019/08/246647view

消費税簡易課税を選択している場合、業種ごとに決められた「みなし仕入率」より「仕入税額控除」の金額を算定します(簡易課税の計算方法は、Q24をご参照ください)。
この点、自社の営む業種が「1種類」の場合は、当てはまる業種の「みなし仕入率」を選択するだけですので、そこまで難しくはありません。
一方、営む業種が「2種類以上」の場合、どの「みなし仕入率」を選択するのか・・?ちょっと迷いそうですね。
目次
1. 業種が1種類の場合
まずは、業種が「1種類」の場合です。
業種が1種類の場合の「仕入税額控除」の算定式は、以下の通りです。
仕入税額控除=課税売上等に係る消費税額×業種に応じたみなし仕入率
課税売上等に係る消費税額=課税売上消費税額―売上返品等消費税額
「みなし仕入率」は、消費税法上、それぞれの業種(第1種~第6種)に対応する率が定められています(40%~90%)。
したがって、業種が1種類の場合は、その業種にあてはまる「みなし仕入率」を適用すれば、「仕入税額控除」の額は自動的に算定されます。
2. 業種が2種類以上の場合
業種が2種類以上の場合は、業種ごとの消費税額を合算して算定した「加重平均みなし仕入率」を用いて「仕入税額控除」を算定します。
少し文章だけではイメージわかないかもしれません。
2種類以上の場合の算定式を示します。
計算式を見ても、具体的なイメージは難しいと思います。後ほど具体例を記載します。
なお、一定の条件のもと、業種ごとの「みなし仕入率」を掛け合わせた消費税額を単純に合算して「仕入税額控除」を算定することも可能です(簡便法)
3. 特例計算
2種類以上の業種を営む場合でも、1種類ないし2種類の事業で全体売上の75%以上を占める場合は、「特例計算」が認められます。原則と特例計算の結果は、納税者が有利な方を選択できます。
特例計算は、「2種類」の場合と「3種類以上」の場合で、少し計算方法が異なります。
以下それぞれまとめます。
(1) 事業が2種類の場合
2種類の事業を営む場合は、どちらか一方の事業の課税売上高が全体課税売上高の75%以上を占める場合、「75%以上を占める事業のみなし仕入率」を全体の課税売上等に対して適用できます。
(1) 事業が3種類以上の場合
3種類以上の事業を営む場合は、そのうち2種類の事業の課税売上高が全体課税売上高の75%以上を占める場合、特例計算が可能です。
事業が3種類以上の場合の「特例計算」の方法は・・ちょっとややこしいです。
計算ステップを分解すると、以下の通りとなります。
(ステップ1)
75%以上の「2種類事業」のうち、みなし仕入率が①高い方と②低い方を把握。
⇒①の事業に係る「課税売上高」は、「高いみなし仕入率」を適用します。
⇒②の事業に係る「課税売上高」は、「低いみなし仕入率」を適用します。
(ステップ2)
75%以上の2種類以外の事業の「課税売上高」は、上記(ステップ1)②の「低いみなし仕入率」を適用します。
(具体例)
業種内訳(みなし仕入率) | 課税売上金額 | 売上割合 | |
---|---|---|---|
① | 卸売業(第1種) 90% | 50,000千円 | 50% |
② | 小売業(第2種) 80% | 30,000千円 | 30% |
③ | 不動産業(第6種)40% | 20,000千円 | 20% |
合計 | 100,000千円 | 100% |
①②の2業種の課税売上高合計 80%≧75% ⇒ 特例計算が可能
(ステップ1)
①②のうち、高い方のみなし仕入率は①(90%)、低い方は②(80%)
⇒①の事業の「課税売上高」は、高い方の「みなし仕入率90%」を適用
⇒②の事業の「課税売上高」は、低い方の「みなし仕入率80%」を適用
(ステップ2)
⇒上記2業種以外の③の「課税売上高」は、上記②「低い方のみなし仕入率80%」を適用。
→つまり、第6種の不動産業(③)についても、第2種(②)のみなし仕入率が適用できるということですね。
(上記例題の答え)
業種内訳 | 適用されるみなし仕入率 | |
---|---|---|
① | 卸売業(第1種) | 90%(第1種の仕入率) |
② | 小売業(第2種) | 80%(第2種の仕入率) |
③ | 不動産業(第6種) |
4. 具体例1(業種が2種類の場合)
(1) 課税売上高の内訳
①第1種事業 課税売上高 46,000千円(みなし仕入率 90%)
②第2種事業 課税売上高 4,000千円(みなし仕入率 80%)
① + ② =課税売上高合計 50,000千円
(2) 売上割合
第1種事業の割合=46,000千円÷50,000千円=92%
→1種類の事業の割合≧75% ⇒ 特例適用可。
(3) 業種別の消費税額(消費税は10%とします、以下同様)
事業内訳(みなし仕入率) | 消費税額 | 計算根拠 |
---|---|---|
第1種事業(90%) | 4,600千円 | 46,000千円×10%=4,600千円 |
第2種事業(80%) | 400千円 | 4,000千円×10%=400千円 |
合計 | 5,000千円 |
(4) 仕入税額控除額
① 原則法
② 特例法
5,000千円×90%=4,500千円
⇒この例では、特例計算の方が仕入税額控除が多くなり、有利となります。
5. 具体例2(業種が3種類の場合)
(1) 課税売上高の内訳
①第1種事業 課税売上高 38,000千円 (みなし仕入率 90%)
②第2種事業 課税売上高 10,000千円 (みなし仕入率 80%)
③第3種事業 課税売上高 2,000千円 (みなし仕入率 70%)
① + ② + ③ = 課税売上高合計 50,000千円
(2) 売上割合
(38,000千円+10,000千円)÷50,000千円=96%
2種類の事業割合≧75% ⇒ 特例適用可。
(なお、第1種+第3種の合計割合も75%以上となりますが、第1種+第2種で計算する方が明らかに「みなし仕入率」は高くなりますので、上記を採用)
(3) 業種別の消費税額
事業内訳(みなし仕入率) | 消費税額 | 計算根拠 |
---|---|---|
第1種事業(90%) | 3,800千円 | 38,000千円×10%=3,800千円 |
第2種事業(80%) | 1,000千円 | 10,000千円×10%=1,000千円 |
第3種事業(70%) | 200千円 | 2,000千円×10%=200千円 |
合計 | 5,000千円 |
控除対象仕入税額
① 原則法
② 特例法
(解説)
75%以上をしめる2種類の事業(第1種と第2種)のうち、
● 高い方のみなし仕入率⇒第1種(90%)
● 低い方のみなし仕入率⇒第2種(80%)
⇒第1種の「課税売上高」は、高い方のみなし仕入率(90%)を適用。
⇒第2種の「課税売上高」は、低い方のみなし仕入率(80%)を適用。
⇒上記「2業種以外」の「課税売上高」(第3種)は、低い方のみなし仕入率(80%)を適用。
⇒この例では、特例計算の方が仕入税額控除が多くなり、有利となります。
6. 事業区分をしていない場合の取扱い
2種類以上の事業を営む事業者が、事業ごとの課税売上区分をしていない場合は、そのうち「一番低いみなし仕入率を適用」して「仕入控除税額」を計算します。
例えば、第1種と第2種を営んでいるにも関わらず、売上区分をしていなければ、低い方のみなし仕入率(第2種・80%)が適用され、仕入税額控除の額が少なくなります。
不利な取り扱いを受けないように、普段から事業区分を行っておく必要があります。
7. 参照URL
簡易課税制度
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm