税金の豆知識
Q204 「事業年度が1年未満」の場合の法人税上の減価償却・消費税基準期間・中間申告等への影響
最終更新日:2023/03/163232view

通常、法人の事業年度は1年となりますが、設立事業年度や、決算期変更等により事業年度が1年に満たないケースもあります。
「事業年度が1年未満」の場合、法人税上、月割計算が必要な項目や、消費税基準期間の判定等につき、注意すべき点があります。
そこで今回は、事業年度が1年未満の場合の、法人税や消費税上の影響につき解説します。
目次
1. 税金計算時に月数計算が必要なもの
事業年度が1年に満たない場合、下記の項目については、月割計算が必要となります。
中小法人の年800万以下の法人税軽減税率(15%) | 8,000,000円 × 事業年度月数 / 12(千円未満切捨) |
---|---|
減価償却費・一括償却資産の償却額(※) | ● 取得価額×調整前償却率 × 事業年度月数 / 12 ● 一括償却資産金額 × 事業年度の月数 / 36 |
中小企業者等の30万円未満少額減価償却資産の特例 | 年間上限額 = 300万円 × 事業年度月数 / 12 |
中小法人の交際費800万円までの損金算入限度額 | 8,000,000円 × 事業年度の月数 / 12 |
寄付金の損金不算入額 | 寄付金の損金不算入額計算時の「資本基準」の限度額 |
地方税均等割 | 所得に関わらず課税される地方税の均等割金額 |
貸倒実績率の計算 | 過去3年間の貸倒実績率計算時の各事業年度の合計月数 |
留保金課税 | 留保控除額における「定額基準額」の計算 |
(※)中小企業者の30万円未満の「少額減価償却資産」の償却限度額は、月割計算は行いません。
2. 消費税課税事業者・簡易課税の判定
(1) 基準期間の課税売上高を12カ月換算
消費税納税義務の判定や、簡易課税の選択可否は、「基準期間の課税売上高」で判定します。「基準期間」が1年でない法人の場合、1年相当に換算した金額により判定します(消費税法9条2②、37条)
基準期間の課税売上高 ÷ 事業年度の月数 × 12
(2) 事業年度が1年未満の場合の「基準期間」算定上の注意
法人の「基準期間」は、原則として前々事業年度を指しますが、前々事業年度が1年未満の場合、以下の規定で「基準期間」の判定を行います。
【消費税法第2条1項14号】 基準期間
・・法人については、その事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が1年未満である法人については、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)をいう。
(3) 基準期間」判定の具体例
● 各事業年度の課税売上高は以下の通り。第4期の「消費税納税義務」判定は?
● 第2期中の2026年6月に、事業年度を3月決算から9月決算に変更している。
決算月 | 事業年度 | 課税売上高 | |
---|---|---|---|
第1期 | 変更前 | 2025年4月~2026年3月末 | 800万円 |
第2期 | 変更年度 | 2026年4月~2026年9月末 | 600万円 |
第3期 | 変更後 | 2026年10月~2027年9月末 | 1,500万円 |
第4期 | 変更後 | 2027年10月~2028年9末 | 2,200万円 |
法人の場合、基準期間は原則として前々事業年度、つまり2期前の事業年度となります。したがって、上記例題の場合、第4期の基準期間は第2期となります。しかしながら、第2期は「決算期変更により事業年度が1年未満」となっています。この場合の「基準期間」は、以下の通りとなります。
① 基準期間の判定(消法2条1項14号)
消費税法2条を当てはめると、以下となります。
第4期開始の日(2027年10月1日)の2年前の日(2025年10月2日)の前日(2025年10月1日)以後1年を経過する日(2026年9月30日)までの間に開始した各事業年度を「合わせた期間」が基準期間となります。
つまり、2025年10月1日~2026年9月30日までの間に開始した事業年度を「すべて合わせた期間」が「基準期間」となります。今回の事例では、この期間に開始した事業年度は第2期のみのため、第4期の基準期間は「第2期」となります。
② 課税売上高の判定
第2期の課税売上高(基準期間)を、1年相当に換算します。
600万円 ÷ 6か月 × 12か月 = 1,200万円 > 1,000万円となるため、第4期は「課税事業者」となります。
3. 事業年度変更年度の中間申告義務の判定
決算期を変更した場合でも、あくまで、当期の中間申告対象期間は、変更前の決算年度をもとに既に決定されています。したがって、中間申告義務の判定は、既に決定されている「中間申告期間末日」で判定します。中間申告期間末日が変更後の事業年度末日以降に到来する場合は、中間納税は必要ありません。
以下、消費税中間申告を例に、具体例で解説します(法人税中間申告も基本的に同じ考え方です)。
【具体例】
● 3月決算会社。消費税中間申告は、年3回の会社とします。
● 消費税は、予定納税方式で年3回行う(300万円×3回)
● 当期(2024年3月期)の年間消費税額は1,300万円に確定した。
● 2024年5月に、決算期を10月決算に変更した。
(1) 決算期を変更しない場合
年3回中間申告法人の場合、以下の中間申告スケジュールとなります(①~③)
中間申告対象期間 | 申告・納期限 | 納税額 | |
---|---|---|---|
① | 4月~6月分 | 8月末 | 300万円 |
② | 7月~9月分 | 11月末 | 300万円 |
③ | 10月~12月分 | 2月末 | 300万円 |
決算時(3月末) | 5月末 | 400万円 | |
合計 | 1,300万円 |
(2) 当期中(2024年3月期中)に10月決算に変更した場合
2024年3月期の中間申告スケジュールは、事業年度変更前の3月決算を前提に既に決定され、中間申告書(予定申告)が通知されます。また、2024年3月期は、中間申告期間末日に中間納税義務が確定します。したがって、10月決算に変更した場合、以下の中間申告スケジュールとなります。
中間申告対象期間 | 申告・納期限 | 納税額 | 摘要 | |
---|---|---|---|---|
① | 4月~6月分 | 8月末 | 300万円 | 6月末に中間申告義務確定 |
② | 7月~9月分 | 11月末 | 300万円 | 9月末に中間申告義務確定 |
③ | 10月~12月分 | 2月末 | 0円 | 12月末に中間申告義務は確定するが、変更後の決算期末9月末を超えるため、中間申告義務はなし。 |
決算時(10月末) | 12月末 | 700万円 | 中間納付額(①②)と確定消費税額1,300万円の差額700万円を支払う | |
合計 | 1,300万円 |
(3) 例外
ただし、消費税・法人税法上、以下の例外的な取扱いがあります。
税目 | 規定 | 具体例 |
---|---|---|
消費税 | 3か月を超えない課税期間の場合、中間申告・納税義務は生じない(消法42条) | 3月決算の会社が6月決算に変更した場合、変更年度の消費税中間申告・納税義務は生じません。 |
法人税 | 中間申告・納税義務が生じるのは、事業年度が6か月を超えた場合に限定(法法71条) | 3月決算の会社が9月決算に変更した場合、変更年度の法人税の中間申告・納税はありません。 |
(4) 6月決算に変更した場合
2024年3月期の中間申告スケジュールは、事業年度変更前の3月決算を前提に既に決定され、中間申告書(予定申告)が通知されます。また、2024年3月期は、中間申告期間末日に中間納税義務が確定します。したがって、6月決算に変更した場合、以下の中間申告スケジュールとなります。
中間申告対象期間 | 申告・納期限 | 納税額 | ||
---|---|---|---|---|
① | 4月~6月分 | 8月末 | 0円 | 6月末に中間申告義務確定。ただし、6月に決算年度を変更する場合、変更後の課税期間(4~6月)は3か月を超えないため、中間申告納税義務はなし |
決算時(6月末) | 8月末 | 1,300万円 | 中間納付額と確定消費税額1,300万円の差額1,300万円を支払う | |
合計 | 1,300万円 |
なお、上記例題のように、6月決算に変更する場合は、変更後の事業年度が3か月となりますので、法人税の中間申告・納税義務もありません。
4. 事業年度変更 翌年の「中間申告義務」の判定
決算期変更により、事業年度が短くなり、消費税納税額が少なくなった場合でも、翌年の中間申告義務は、年換算した金額で判定します。例えば、9カ月決算で確定消費税額が45万円(地方税除く)の場合、年換算すると確定消費税額が60万円となり、48万円を超えますので、年1回中間申告が必要となります。また、この場合の納税額は年換算した確定消費税額60万円を前提に、翌年中間納付額が決定されます(30万円)。
5. 参照URL
(納税義務の免除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
(簡易課税制度)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
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