税金の豆知識
Q189【令和7年改正反映】 年金受給者等高齢者を扶養している場合に優遇される「所得控除」の種類は?/高齢者自身に適用しやすい所得控除は?
最終更新日:2025/09/0632419view

高齢になると、一般的に、「医療費」や「介護費用等」の支出が多くなるケースが多いです。
こういった高齢の「親」や「配偶者」などを扶養している場合、「金銭的な負担」が多くなることが予想されます。
そこで、税務上、「高齢の親族等」を扶養する場合は、通常よりも優遇された「所得控除」が認められています。
また、医療費控除など、高齢者自身に関連が深い(=適用しやすい)「所得控除」もあります。
今回は、高齢者を扶養する場合に優遇される「所得控除」の種類や、高齢者自身に適用しやすい「所得控除」をご紹介します。
目次
1. 扶養控除
(1) 扶養控除とは?
扶養控除とは「合計所得金額が58万円以下」(給与収入換算123万円、年金収入換算118万円(65歳未満)、168万円(65歳以上))の扶養親族がいる場合に認められる「所得控除」です。
扶養控除ができる70歳以上の「扶養親族」は、「老人扶養親族」と呼ばれ、一般の扶養控除よりも高い所得控除額が可能です。また、そのうち、「同居老親等」は、通常よりも高い所得控除額が認められています。
以下の通りです(カッコ書きは住民税の所得控除額を示します、以下同様)。
種類 | 控除額 | |
---|---|---|
老人扶養親族(70歳以上) | 同居老親等以外 | 48万円(38万円) |
同居老親等 | 58万円(45万円) | |
一般の控除対象扶養親族(16歳以上) | 38万円(33万円) | |
上記中、19歳~23歳未満(特定扶養親族) | 最大63万円(最大45万円) |
(2) 同居老親等の判定
「同居老親等」とは、老人扶養親族のうち、納税者・その配偶者の「直系の父母・祖父母など」で、納税者・その配偶者と常に同居している人をさします。
「同居老親等」は、常に同居している必要がありますが、本人だけでなく、配偶者が同居している場合も同居と認められます。例えば、「夫の親」と「夫」が別居の場合でも、「配偶者の妻」が「夫の親」と同居していれば、夫の「同居老親等」と認められます(子供が「夫の親」と同居している場合は、子供の「同居老親等」となり、夫の同居老親等にはならない)。
ただし、老人ホームに入居している場合は「同居要件」満たしません。一方、入院については、たとえ長期間入院している場合でも「同居」に該当します。
2. 配偶者控除・配偶者特別控除
(1) 配偶者控除
配偶者控除とは、「合計所得金額が58万円以下」(給与収入換算123万円、年金収入換算118万円(65歳未満)、168万円(65歳以上))の配偶者がいる場合に認められる所得控除です。配偶者控除ができる70歳以上の配偶者は、「老人控除対象配偶者」と呼ばれ、一般の配偶者控除よりも高い控除額となっています。
配偶者控除の金額は、扶養控除と異なり、一律ではなく、本人の合計所得(年金等)に応じて、3種類に分かれます。以下の通りです。
【配偶者控除額】
本人の合計所得金額 | 老人控除対象配偶者 控除額 | 一般の控除対象配偶者 控除額 |
---|---|---|
900万以下 | 48万円(38万円) | 38万円(33万円) |
900万超950万円以下 | 32万円(26万円) | 26万円(22万円) |
950万円超1,000万円以下 | 16万円(13万円) | 13万円(11万円) |
(2) 配偶者特別控除
一方、配偶者特別控除は、「合計所得金額が58万円超133万円以下」の配偶者に認められる所得控除です。合計所得の金額に応じて、控除額は段階的に減少していきます。こちらの「配偶者特別控除」については、年齢により「特別に定められた規定」はないため、70歳以上の方も、70歳未満の「一般の配偶者特別控除」と同じ規定となります。
3. 医療費控除
(1) 医療費控除とは?
医療費控除は、「年間支払医療費」が、「一定額」を超えた場合に認められる所得控除です。
高齢者は、通常、「医療費」の支出が多くなるため、高齢者自身の「所得控除」として活用しやすい所得控除です。
また、「医療費控除」は、本人の分だけでなく、納税者と「生計を一」にする親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)の医療費も対象となります。したがって、例えば、扶養している親や配偶者の医療費を支払った場合でも、「生計が一」であれば、ご自身の「医療費控除」として活用できます。
(2) 生計を一とは?
「生計を一」とは、「財布が一緒」という意味で、必ずしも「扶養している・同居している」必要はありません。例えば、単身赴任等で別居していても、仕送り等、日常生活費を負担している場合は「生計を一」となります。
(3) 医療費控除の額
医療費控除の金額は、「医療費支出額 - 10万円」となります。
(総所得金額等が200万未満の場合は、総所得金額等×5%を超えた金額)
上限は、年間支出額200万円まで認められ、公共交通機関の交通費も、医療費控除の対象となります。
4. 障害者控除
(1) 障害者控除とは?
障害者控除とは、所得税法上の「障害者」に該当する場合に認められる所得控除です。
高齢者の場合、「障害をお持ちの方」も多くなりますので、高齢者自身の「所得控除」として活用しやすい所得控除です。
また、「障害者控除」も、「医療費控除」と同様、本人が障害者の場合だけでなく、納税者と「生計を一」にする親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)が障害者の場合も適用できます。したがって、例えば、扶養している親や配偶者が障害者の場合でも、「生計が一」であれば、ご自身の「障害者控除」として活用できます。
(2) 所得要件等
本人が障害者の場合、所得要件はありませんが、生計を一とする親族が障害者の場合は、親族の「合計所得金額が58万円以下」(給与収入換算123万円、年金収入換算118万円(65歳未満)、168万円(65歳以上))の所得要件があります。
また、青色事業専従者給与を受け取っている場合、障害者控除と併用はできません。
なお、親族の年齢要件はありませんので、「16歳未満の扶養親族」が障害者の場合も、本人の所得控除が可能です。
(3) 障害者控除の額
下記の3種類に区分されます。
特別障害者とは、精神or身体に重度の障害がある人を指し、一般の障害者と区別されています。
また、同居特別障害者とは、特別障害者である控除対象配偶者や扶養親族で、納税者本人、配偶者、生計を一にする親族のいずれかとの「同居を常況」としている人です。
種類 | 控除額 |
---|---|
障害者 | 27万円(26万円) |
特別障害者 | 40万円(30万円) |
同居特別障害者 | 75万円(53万円) |
【同居特別障害者と同居老親の範囲の違い】
「同居特別障害者」は、「扶養控除」で認められる「同居老親」よりも、同居する親族の範囲が広くなっています。同居老親等の場合は、「納税者本人・配偶者が同居」する場合のみ認められますが、「同居特別障害者」の場合は、「生計一の親族が同居」する場合も認められます。
ただし、同居老親と同様、長期入院は「同居」と認められますが、老人ホーム入居の場合は、「同居」と認められません。
(4) ご参考~障害者控除の対象~
障害者控除の対象となる人は、以下となります。
内容 | 特別障害者に該当する場合 | ||
---|---|---|---|
① | 精神上の障害 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある人 | 常に特別障害者 |
② | 知的障害者 | 児童相談所や精神保健福祉センター、精神保健指定医等の判定により、知的障害者と判定された人 | 重度の知的障害者は、特別障害者 |
③ | 身体障害者 (身体障害者福祉法) | 身体障害者手帳に、身体上の障害で記載がある人 | 障害の程度1級又は2級の人は特別障害者 |
④ | 精神又は身体に障害がある65歳以上の方で 上記①~③に準ずる方 | 市町村長等の認定を受けている方 | 特別障害者に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている人 |
⑤ | 精神障害者 (精神保健及び精神障害者福祉に関する法律) | 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人 | 障害等級1級の人 |
⑥ | 常に寝たきりで複雑な介護が必要な方 | 12月31日の現況で6ヶ月以上身体障害により寝たきりの状態で、複雑な介護を必要とする人(介護を受けなければ自ら排便等をすることができない状態) | 常に特別障害者 |
⑦ | 戦傷病者 (戦傷病者特別援護法) | 戦傷病者手帳の交付を受けている人 | 恩給法に定める特別項症から第3項症までの人 |
⑧ | 原子爆弾被爆者 (原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律) | 厚生労働大臣の認定を受けている人 | 常に特別障害者 |
● ⑥の「複雑な介護を要する方」ついては、市町村長から認定書の交付を受けることも可能です
(厚生労働省・平成14年8月1日事務連絡)
● なお、「要介護認定」は、介護保険法により認定されるものであり、税法上の「障害者控除」には直接関係しません。ただし、上記④「市町村長等の認定」を受ける際に、「介護保険法の要介護認定」が要件となる場合が多いため、実務上は「要介護認定」を受けている方は、市町村長の認定を通じて、所得税上の「障害者控除対象者認定」を受けることになります。
5. その他の所得控除
上記の他、高齢者の場合に該当しやすい所得控除や、忘れやすい所得控除は以下となります。
(1) ひとり親・寡婦控除
ひとり親控除・寡婦控除は、納税者が「ひとり親」の場合や、配偶者と死別・離婚している場合に認められる控除です。高齢になると、配偶者と死別等されるケースも多くなります。こういった場合に、ひとり親控除や寡婦控除が利用できるケースもあります(寡婦控除は女性のみ)。
種類 | 控除額 |
---|---|
ひとり親控除 | 35万円(30万円) |
寡婦控除 | 27万円(26万円) |
(2) 社会保険料控除
社会保険料控除とは、介護保険、国民健康保険(後期高齢者医療保険含む)、国民年金等を支払っている場合に認められる所得控除です。「年間支払額の全額」が所得控除可能です。
年金受給者の場合、年金受給時に介護保険料等が天引きされているケースがありますので、確定申告の際には、年金受給時に天引きされている社会保険を、忘れずに記載します。
6. ご参考~所得控除の種類~
所得税上、以下の種類の「所得控除」が定められています(それぞれの詳細な制度内容は、リンク先をご参照ください)。
種類 | 認められるケース | 所得控除額(所得税) |
---|---|---|
基礎控除 | 誰でも認められる所得控除 | 0円~最大95万円 |
扶養控除 | 合計所得58万円以下の扶養親族がいる場合 | 年齢等に応じて異なる。最大63万円 |
特定親族特別控除 | 19歳~23歳未満で合計所得58万円超133万円未満の 親族がいる場合 | 3万円~最大63万円 |
配偶者控除 | 合計所得58万円以下の配偶者がいる場合 | ● 70歳未満 最大38万円 ● 70歳以上 最大48万円 |
配偶者特別控除 | 合計所得58万円超133万円以下の配偶者がいる場合 | 1万円~最大38万円 |
社会保険料控除・ 小規模企業共済掛金等控除 | 社会保険料等の支払がある場合 (国民健康保険、国民年金、厚生年金、健康保険 小規模企業共済等掛金、確定拠出掛金等) | 年間支払金額 |
生命保険料・ 地震保険料控除 | 生命保険、介護医療保険、個人年金、地震保険などの支払がある場合 | ● 生命保険料控除 最大12万円 ● 地震保険料控除 最大5万円 |
医療費控除 | 医療費の支払がある場合 | 上限200万円 |
障害者控除 | 本人やその親族が、障害者の認定を受けている場合 | 27万円~75万円 |
寡婦・ひとり親控除 | ひとり親や、配偶者と死別・離婚されている場合 | 27万円or35万円 |
寄付金控除 | ふるさと納税等の寄付がある場合 | 特定寄付金額 - 2,000円 (上限あり) |
勤労学生控除 | 本人が勤労学生に該当する場合 | 27万円 |
雑損控除 | 災害や盗難、横領による損失がある場合 | 以下いずれか多い方 ● 損失額-(総所得金額等×10%)(上限あり) ● 災害関連支出-5万円 |
7. 参照URL
(No.1182 お年寄りを扶養している人が受けられる所得税の特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1182.htm
(「同居」の範囲(長期間入院している場合))
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/32.htm
(No.1184 扶養家族に寝たきりの老人がいるときの控除額)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1184.htm
(障害者控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1160.htm
8. YouTube
YouTubeで分かる「【年金受給者】所得控除の種類は? 高齢者に優遇される「所得控除」の内容とは?」